第39回愛知広告協会賞入賞・入選

第39回愛知広告協会賞講評

プリント媒体

審査員：岡本滋夫　中部デザイン団体協議会名誉会長

　愛知広告協会大賞は、ほぼ満票に近い形で医療法人葵鐘会～Bell-net～の「MOTHER BOOK」が選ばれた。妊婦の一週間を1ページとし、40週を40ページで表現したこの本は、ページをめくるごとに妊婦と同じようにお腹がふくらんでいく。本の厚みを活かした斬新なアイデアに、審査員一同がこころを奪われた。各ページには、その週で起こる妊婦の体の変化がきめ細やかなアートで描かれており、理解もしやすく、あとから見返せば妊娠生活の思い出にもなるだろう。余白の部分には、母親が子どものためにメッセージを書けるスペースもあり、妊娠中の貴重な体験自体を、生まれてくる子どもにプレゼントできる。本自体のデザインも素晴らしいが、使った後の母子の気持ちや余韻までがデザインの一部のように感じた。海外でも高く評価されているようだが、このような作品がこの賞に出てきたこと自体が、今年一番のトピックだろう。デザイン賞も、今年はこれしかないと満票で選出された。

　部門賞は2つ。ポスター賞はドナルド・マクドナルド・ハウスのポスターが受賞した。昨年度、45段の新聞広告でグランプリを受賞した、産学連携のキャンペーンだ。それぞれの写真からは、遠く離れた病室に通う母親のストーリーが感じられる。入院する子どものそばにいられない母親の辛さを訴えるコピーも秀逸で、こころにスッと入って来た。表現手法としては王道だが、デザイン、写真、コピー、イラストとそれぞれのレベルが高い領域で融合し、完成度の高い作品となっている。

　新聞部門では中日新聞社他のメディアが中心となって展開した「AICHI SAFETY ACTION」が選ばれた。愛知県の交通事故志望者数をなくすための一大プロジェクト。事故の危険や注意の仕方をシンプルなイラストで表現した印象的なデザインと、気づきのあるわかりやすいコピーが高く評価された。決して奇をてらうわけではなく、極力情報量を減らし、知ってもらいたいことを最短スピードで伝える。表現に溺れずに本気で人の心を動かそうとする、作り手の意思が感じられた作品だった。

　コピー賞は富士学院のポスター。難関の医学部を目指す受験生の心情が、誰にでも共感できる言葉で表現されていた。受験生だけではなく、日々、何かに挑む人たちのこころにも強く訴えかけるコピーワークが評価された。

　フォト賞は愛知県の人権週間ポスターの写真が選ばれた。こころに傷を抱えながらも、日々を必死に生きている人間の強さと弱さ。美しさと儚さ。いじめや差別など人権侵害に苦しむ人間の心情を、見事に一枚の写真におさめている。

　イラスト賞にはコピーライターズクラブ名古屋のポスターを選んだ。
丸めると花束になるCCN年鑑の紹介ポスターだが、一見ラフに見えても、計算された丁寧なタッチでイラストレーター独自の世界観をつくっているのが評価された。

電波媒体

審査員：権八成裕　シンガタ株式会社 ACC立会人

　グランプリは、ドナルドマクドナルドハウスとマキタの二者が競い合った。どちらも卓越した仕事で、その素晴らしさのベクトルが真逆であるがゆえに、審査員を悩ませた。

　マキタは、その商品さながらの切れ味で、草刈り機のCMに草刈正雄という、この、誰でも思いつきそうなのに実現してこなかった超ベタなアイデア（褒め言葉です！）で有無を言わさぬ説得力を獲得。このベタ過ぎるアイデア（繰り返しますが褒めてます！）をストイックに美しく描いた点も見逃せない。

　一方のドナルドマクドナルドハウス。丁寧に積み上げられたコピー、抑制のきいた演出、カメラワーク、編集、慈愛に満ちた音楽…etc。たいへんな状況を真摯に伝えようとする作り手のまっすぐな優しさが、確かな技術に裏打ちされて、見る者の心に確実に変化をもたらす。このキャンペーンで、相当の額の募金が集まった事実に納得せざるを得ない。今年のグランプリは、ドナルドマクドナルドハウスに決まった。

　AICHI SAFTY ACTION事務局のAICHI SAFTY ACTIONは、交通事故を減らすための啓発CMでありながら、まったく説教臭くならないどころか、一つ一つのネタに発見と工夫があり、ラジオという媒体の特性を見事に生かしながら、リスナーの気持ちを前向きにさせる高みにまで到達している。感服せざるを得ない。ラストのサウンドロゴもいい。

　東京ガスの時報は、一歩間違うとベタつきそうな「家族のささやかな幸せ」というテーマを、ピュアすぎるほどの素直な言葉で、無防備に表現してみせた。作り手の鋭い洞察と、なによりその優しい眼差しがあってこその仕事。出演者たち、とくに女の子とお母さんの声もいい。

　今西数英教室という塾のある地域の高校生たちは幸せだ。たとえこの塾に通わなくても、この塾のCMが見られるから。他の進学塾が必死にそのスペックで差別化をはかろうとする中にあって、この塾は全く違うアプローチで挑み続けている。一瞬で過ぎ去って二度と訪れない高校時代という特別な時間の一回性に立脚し、洗練の度合いをますます増してゆく繊細な言葉たちと映像のコラージュは、彼や彼女の強烈なシンパシーを獲得しながら、同時に熱烈なエールとなる。凄い仕事だ。

　入賞は逃したが、東海テレビの「自殺と向き合う」に触れないわけにはいかない。非常にナーバスで難しいテーマを、逃げずに正面から描いている。クライアントと作り手の凄まじい覚悟とぶれない信念に、敬意を覚える。個人的には、入賞作品とまったく遜色ないCMだと思う。

　他にも優れた仕事はたくさんあって、とても刺激を受け、勉強になりました。このような貴重な機会を与えて頂いて、本当にどうもありがとうございました。僕も頑張ります。